誰かの「普通」に従わなくていい。プラスサイズモデルDulmiがカメラの前に立つ理由

誰かの「普通」に従わなくていい。プラスサイズモデルDulmiがカメラの前に立つ理由
文:荘司結有  写真:須古 恵

VOGUEによるモデル発掘プロジェクトで、応募者6万人の中からファイナリストに選出。プラスサイズモデルのDulmiさんが、自信がなくても少しずつ歩み続けられてきた理由とは

2023年、VOGUEによる初のグローバルモデル発掘プロジェクト「Open Casting」でファイナリストに選ばれたDulmi(ドゥルミ)さん。2019年、ピーチ・ジョンによるありのままの自分を表現する等身大モデル「リアルサイズモデル™ 」でデビュー。プラスサイズモデルとして、アンダーウェアからファッションまで幅広く活動を展開している。

日本とスリランカのミックスルーツであるDulmiさんは、見た目が他人と異なることから「自分の外見に自信がなかった」という。そんな彼女は、どのような想いや思考の変遷を経て、現在の活動にたどり着いたのだろうか。これまでの道のりや、カメラの前に立つ理由について聞いた。

モデルになりたい自分と、自信がない自分の間で揺れ動いた幼少期

─ はじめに、幼少期のDulmiさんについて教えてください。

大阪・高槻市の田んぼや山に囲まれた自然あふれる土地で育ち、毎日虫取りをしたり駆け回ったりと活発な子どもでした。ただ、小学2年生のとき、母の仕事の都合で1年間だけ転校することになりました。

引越し先はもっと田舎で、海外ルーツの子どもが珍しかったのだと思います。ある日の朝、登校したら下駄箱で上級生の子が待ち伏せしていて、肌の色のことを馬鹿にされたんですよね。母にその出来事を話すと、担任の先生に連絡帳で伝えてくれ、後ほど本人から謝られました。でも、そういったことがずっと心に残っていて、コンプレックスが芽生えたのだと思います。

─ そうした外見へのコンプレックスがあった一方、モデルや女優の仕事に興味を持ったのはなぜでしょう。

幼い頃から、人前に立って周りに影響力を与える人になりたいと思っていました。働く女性だった母の背中に憧れながら育ったからかもしれません。高校時代には生徒会長を務めて、学校内のルールを変えるべく尽力したこともあります。

そうした幼い頃の思いもあって、テレビや雑誌の影響で人前に立つモデルや女優の仕事にも自然と惹かれていました。特に小学生のときに憧れていたのはローラさんでしたね。私と同じく、南アジアにルーツを持つので、勝手に親近感を抱いていました。

─ 子どもの頃のDulmiさんにとって、モデルや女優は「人前に立つカッコいい女性」というイメージだったのですね。

そうですね。キラキラしていて本当に憧れというか、自分もこうなりたいって強く思っていました。でもその半面、やはり褐色肌のモデルは少なかったですし、絶対に細身の人でないとなれない職業だとも思っていましたね。

中学生のとき、いつも読んでいたティーン向けのファッション誌があり、一度だけ専属モデルのオーディションに応募したんです。ただ、誌面には専属モデルの子たちの身長や体重まで載っていて、「この体型じゃなきゃいけないんだ」って半ば諦めていた面もありました。結局、そのオーディションは一次選考の結果も届きませんでした。モデルに憧れる自分と、モデルになるのは難しいだろうと思う自分の間で葛藤していました。

モデルに憧れる自分と、モデルになるのは難しいだろうと思う自分の間で葛藤していたと話すDulmiさん

見た目や体型に自信が持てない。それでも徐々にありのままの自分を愛せるように

─ 2019年にピーチ・ジョンの「リアルサイズモデル™ 」のオーディションに挑戦しようと思ったのはなぜですか。自信がない自分から、一歩踏み出せた理由が知りたいです。

20歳のとき、ピーチ・ジョンが好きだった母から「リアルサイズモデル™ ならいけるんじゃない?」とオーディションを紹介されました。これまでのスレンダーなモデルではなく、等身大のモデルを一般募集するものだったので、「これなら自分でもいけるかもしれない!」と思えた。当時の私は大学生。中学生のときから続けていた剣道をきっかけに体育科のある強豪校に進み、将来は体育の先生やスポーツトレーナーになろうと思っていました。でも、頭の片隅には「いつかモデルにチャレンジしたい」という想いがあったんです。

だからこそ、合格したときは本当にうれしかったですね。本格的な撮影やヘアメイクでデビューすることができて、モデルとして初めてのお仕事がその後のキャリアにつながる大きな自信になりました。モデルってファッションから入ってくる子たちが多いのですが、私はアンダーウェアからのスタート。その経験のおかげでナチュラルな表情やポージングが得意になったかなと思います。

─ 2021年にはミス・ユニバースの日本大会でファイナリストに選ばれました。参加しようと思ったきっかけを教えてください。

その前年の日本大会のトップ5全員がミックスルーツであることに、すごく感動しましたし、新しい時代が来ていると感じて、次の年は絶対に応募しようと心に決めました。日本大会に出場するには地方大会を勝ち抜く、もしくは直接応募して合格するという方法がありますが、私は後者の直接応募で面接などをこなし、ファイナリストになりました。

そうした背景もあって、大会内のスピーチでは「ありのままの自分を愛してほしい、という想いを世界中の人々に伝えたい」と話しました。私はこれまで自分の見た目や体型に自信が持てなかったけれど、今はプラスサイズモデルとして活動している、だからみんなも自信を持って生きてほしいと伝えたんです。

私の他にもミックスルーツの出場者が何人かいましたが、みんなそれぞれ悩みやコンプレックスを抱えていました。私自身、大会期間中に改めて自分自身を見つめ直し、そこから発信したいことを見つけ出す・生み出すことはとても勉強になりました。

― 大会に参加する中でDulmiさん自身、内面を振り返る機会にもなったんですね。

当時はプラスサイズモデルとしてまだ駆け出しで、自分の活動を外に発信することに自信がありませんでした。撮影後に写真を受け取っても、自分のInstagramにアップしたり、友達に報告したりできなくて…。でも、日本大会の期間を通じて「なぜこの活動をしていきたいのか」をしっかり深堀りできた。その結果、自分の仕事に対して、もっと自信を持って堂々としていようと思えるようにもなりました。

― 周りに認められ、プラスサイズモデルとしてキャリアを積む一方、それでもまだ自分に自信が持てなかったのはなぜでしょう。

「私を見て!」って思う自分もいるのですが、内側は“コンプレックスの塊”というか…トラウマのようなものがあるような気がしますね。今の事務所の子たちってすごく明るくてグイグイ引っ張ってくれるのですが、中でも私は引っ込み思案なほうだと思います。

母はそんな私に気づいていて、「なんで自信が持てないの?」「もっと堂々とすればいいじゃん!」って言ってくるんです。「そんなことない!」って反論したいのですが、今でもまだ自分に100%の自信は持っていないかもしれません。でも、少しずつ「自信がない自分」の割合が小さくなっていると思います。

2021年のミス・ユニバース日本大会の期間を通じて「なぜこの活動をしていきたいのか」をしっかり深堀りできたと話すDulmiさん

雑誌で「普通」とされるものに疑問。VOGUEに「変化」を求めたかった

― 直近では2023年、VOGUEの「Open Casting」に応募しファイナリストに選出されました。

以前、VOGUEの撮影でお世話になったスタッフさんのSNSでオーディションを知り、瞬間的に「これは応募しなきゃ!」と思ったんです。当たって砕けろの精神というか、なんでもチャレンジしてみたい性格でもあるんですよね。

選考過程では、ポートレートやウォーキングの動画のほかに、「VOGUEに何を求めるか」というスピーチの提出がありました。難しいテーマではあったのですが、私は「いまメディアや雑誌で『普通』とされていることに沿って生きることに疑問を感じている。だからVOGUEに『変化』を求めます」と話しました。応募するだけならタダだし…と思ってエントリーしたのですが、1次選考、2次選考を通り、まさかファイナリストに選ばれるなんて…。

― 世界各国からの応募者6万人の中からファイナリストの一人に選ばれ、大きな注目を集めましたね。

VOGUEという歴史ある雑誌のオーディションで、ファイナリスト8人のうち、プラスサイズモデルが2人選ばれたのはとても大きなことで、時代が変わっている証明になったと思います。VOGUEに認められたことによって、逆輸入的に国内でも「こういうモデルがいるんだ」と知ってもらえるきっかけになりました。

― ロンドンでの撮影はいかがでしたか。

ロンドン市内の大きなスタジオで撮影してもらい、本当に夢のような時間でした。ブラックレザーのロングコートを着たのですが、実は最初は赤いゴージャスなドレスにグラマラスなヘアメイクを施してもらったんです。でも、カメラの前に立つと、フォトグラファーの方が「ちょっと違うな」と首をかしげて、急きょメイクを落とし、ヘアセットもほどいて、衣装もすべて変えました。きらびやかなドレス姿も新しくて素敵でしたが、「ナチュラルな素の自分」のほうがいいと思ってもらえたのはうれしかったですね。

社会から「普通」とされるものに囚われず、ありのままの自分の良さを磨いて

― DulmiさんはInstagramで自身の体験を基に、ボディ・ポジティブについて発信も重ねていますよね。ご自身の活動を通じてどんな価値観を広めていきたいですか。

日本ではメディアや雑誌によって、偏った「美」の固定概念が広がっているように思います。私自身、そうした固定概念に影響されて自信を失っていた面もありました。肌の色や体型など、見た目に関する多様性をきちんと伝えていかないと、このサイクルは変わっていきません。私がプラスサイズモデルとして、さまざまな広告や雑誌に登場することで、社会から「普通」と押し付けられるものに囚われず、ありのままの自分の良さを大切にしてほしい、とのメッセージを届けていきたいです。

私が憧れているプラスサイズモデルのパロマ・エルサッサーに、フランスでお会いすることができた際、「この仕事をやり続けることが大切だ」と言われました。彼女も初めは、世間に受け入れられなかったそうですが、自分を貫くことで、今の立ち位置を確立した。私自身も、この仕事を長く続けていくことで、身近なところから固定概念を変えていきたいですね。

― 日本ではまだプラスサイズモデルの浸透は道半ばです。Dulmiさん自身、仕事で壁を感じたことはありますか。

そうですね。例えばサイズ展開が狭いブランドさんだと、そもそもプラスサイズモデルを起用していないこともあります。広がっているとは思いつつも、まだまだ企業側も手探り状態だと思うんですよね。プラスサイズモデルを起用して世間がどう反応するのか、その商品が売れるのか…という懸念があるのだと思います。

― 活動にまだ難しさを感じる中でも、Dulmiさんの原動力となっているのは何でしょうか。

ユニクロのアンダーウェアの広告に出演した際には、オンラインストアの口コミ欄に「大きいサイズのモデルを使っているので、自分と見比べやすくてとても助かります」との声を見つけました。友人には「Dulmiが色んな広告に出ていることで、自分にも自信が持てるようになった」と言ってもらえて、そういう言葉の数々が仕事を続ける原動力になっています。

実は活動を始めた当初、祖母はプラスサイズモデルという概念をあまり理解できていませんでした。やはり上の世代は「モデル=10等身で細身の人」というイメージが強いみたいで…。でも、徐々に私の活動も理解してくれるようになっているんです。諦めずに伝え続けていけば、身近なところから変えていけるんだなって。ただただモデルを続けるだけじゃなくて「こういう思いがあってやっている」とのメッセージも一緒に届けていきたいですね。

プラスサイズモデルの仕事を長く続けていくことで、身近なところから固定概念を変えていきたいと話すDulmiさん

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

Dulmi(ドゥルミ)

大阪出身。日本とスリランカのバイレイシャルであり、プラスサイズモデルとして活動。2019年にはランジェリーブランド、ピーチ・ジョン(PEACH JOHN)のモデルとして活動、2021年にはミス・ユニバース ジャパンのファイナリストに選出される。2023年、ヴォーグによる初のグローバルモデル発掘プロジェクト「Open Casting」で6万人の応募者の中から8人のファイナリストとして選ばれる。趣味はワークアウトと料理。

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